D'Angelo And The Vanguard / Black Messiah

M1〜M3の過密なサウンドとロウなギターの音色の存在感や直線的なリズムからはJimi Hendrix等という連想が強ち的外れでなく思える程、ロック的な熱を帯びていて、嘗てヒップホップしか聴かないと豪語していたクールなR&Bシンガーの姿が一瞬霞み掛ける。

フィルターを一切通していないような生々しい音像はアルバム全体を通低しているが、M4では貫禄のファンクで安心感を取り戻し、M8のつんのめったベースやアナログなシンセの揺らぎにはJ Dillaのビートを思い出す。

ストリングスやスパニッシュ・ギターを大胆にフィーチャーしたメランコリックなM5や、口笛とアコースティック・ギターアルペジオが牧歌的なM10には、これまでのD'Angeloのイメージを覆す意外性があるし、M9のビッグバンド・ジャズ宛らに疾走するブラスは本作のハイライトで、「Voodoo」と較べるとヴァラエティに富んだ印象を受ける。

それはある種の円熟と呼んで差し支えないように思える一方で、過剰なオーヴァーダブが施されたヴォーカルは健在ながら、D'Angeloの声はソフィスティケートされるどころか変態性を増しているようでもあり、更に一歩も二歩もPrinceに接近するよう。
そう考えるとバンドに冠された「The Vanguard」なる呼称はThe Revolutionへのオマージュではないかとも思えてくる。