Autechre / Move Of Ten

ほんの数ヶ月前にリリースされた前作が、少ない音数で作られたアンビエンスとメロディについてのアルバムだとすると、本作は同じ方法論で作られたダンスとリズムについての作品だ。

とは言え過剰に複雑なリズムの冒険が成されている訳ではなく、逆に驚くほどシンプルなリズムで統一されている。
何せAutechreのトラックにしては驚くべき事に、キック、スネア、ハイハットという具合にリズムの要素を分解して聴く事が出来るし、あろう事か4/4のリズムまでが登場する。
散々指摘されてきた事ではあるが、改めてAutechreの音楽に初期エレクトロの影響を実感する。

前作にも言える事ではあるのだが、ある時期までのAutechreが半ば強迫観念的に隙間を埋めるように音を組み立てていたのに対し、ここでは空間を生かすプロダクションに主眼が置かれているようだ。

それは足算から引算への転換であるとも言えるだろうが、「引算」という言葉とAutechreに対するイメージがどうにも腑に落ちず、単なる言葉遊びに過ぎないのだが、「空間を足した」のだと表現を変えてみることで一気に着地する感覚があった。

サウンドとは一切無関係だが、その発想から瞬間的にJohn Cageを連想し、未だに自分にとってAutechreが、「音楽の拡張」というコンセプトを象徴する存在だと実感した。