Tommy Guerrero / Living Dirt

Tommy Guerreroという人は自分にとって、Money Markと並んで今は亡きMo' Waxのラウンジ面を象徴するアーティストであるが、当時James Lavelleが彼らを重宝した理由は良く解る気がする。
Tommy GuerreroMoney Markの音楽性に共通して言えるのは特定の音楽ジャンルやスタイルにアイデンティファイしない点だろうが、彼らのサウンドに現れるジャズやヒップホップやレゲエやラテンやその他諸々の要素は、対象への愛情は感じられても何処か記号的で、それは恐らくMo' Waxが目指した音楽との関わり方とも重なる部分であるだろう。

そのようなアーティストの場合、作品毎の変化に然して重要な意味があるとは思えないが、本作は恐らくブレイクビーツの多用というただ一点のみにおいてMo' Wax時代のTommy Guerreroの作風を想像させる。

ある種のコンセプト・アルバムであるらしく、一人スタジオに籠り丸二日間で完成されたというこの作品のサウンドは、冒頭のアンビエントを除き終始一貫してブレイクビーツとベースラインのループの上に、ギターやらシンセやらの生演奏を重ねる構造を採っており、それはまぁ冗長的で退屈ですらある。
こういった作品というのは制作する本人が一番楽しいもので、自己満足以外の何物でもないだろうが、Tommy Guerreroは間違い無くそれが許されるタイプの作家でもある。

少なくとも誰かがそこにニーズを嗅ぎ取った結果この音楽がCDという形態で(しかも日本盤まで)流通している訳で、音楽産業が壊滅的な状況であると言われて久しい現在において、誰かの純粋な興味や衝動の産物がパッケージ化された形で享受出来る事自体が随分と希有で貴重な事のようにも思える。