Martyn / Ghost People

冒頭のEmeraldsにも通じるようなコズミックなシンセ・サウンドが、2562「Fever」に於ける「Winamp Melodrama」の場合と同様に、Martynもまた2年前とは異なる場所に居る事を宣言している。
特徴的だったダビーなベースラインは消え失せ、多少変則的ではあるがイーブンキックのトラックが大半を占めるという面では、やはり2562の場合と同じくよりテクノ/ハウスに回帰した作品である事は間違いない。

但し飛び交う微細な音の粒子によって霞が掛ったような音像や、幾分唐突な音の出入り、更にはファンキーなベースラインがトラックを牽引する構造等には、どちらかと言えばミニマルだったMartynのサウンドのイメージを覆すに充分な派手さがあり、本作がBrainfeederからリリースされた事と決して無関係とは思えない。

過去20年余のエレクトロニック・ダンス・ミュージックの歴史の至る所にリファレンス・ポイントを見出せる点は現在のポスト・ダブステップと呼ばれる状況の興味深いところだが、Falty DLのサウンドに於ける808 Stateと似たような意味で、本作のインタールード的なM6やラストを飾る大作のM11のシンセリフからは「Selected Ambient Works 85-92」の気配を感じたりもする。

それはFlying Lotusの小宇宙にRichard D.Jamesの亡霊が迷い込んだようなサウンドで、充分ノスタルジックではあるが然してレトロには聴こえず、未来を懐かしんでいるような感覚がある。