Wagon Christ / Toomorrow

気が付けば同郷の才人達の誰にも増してLuke Vibertが作る音楽に金を払い続けている。
多数の名義によるコンスタントなリリースは勿論大きいが、Richard D. James、Tom Jenkinson、Mike Paradinasに較べると適度に洗練された過剰さの無いサウンドからは大きな衝撃こそ受けた試しが無い分、「Drukqs」や「Royal Astronomy」に感じた類の軽い失望すらも覚えた事が無い。

Luke Vibertの作るトラックを聴いていると、この人はアーティストとしてのエゴとは無縁のところで極めてシンプルに自分の聴きたい音楽を日々量産している(そして出し惜しみしない)のだろうといつも思う。
Wagon Christ名義では7年振りとなる新作でも相変わらずアシッドを噛んだA Tribe Called Questが映画音楽をサンプリングして作ったようなブレイクビーツが満載で、思わず時代感覚が麻痺して自分が2011年に生きている事を忘れそうになる。

多様な声のサンプルが構成するビートが文句無しに格好良いM3などはColdcut「More Beats + Pieces」と繋げて聴いてみたい欲求に駆られ、1997年と2011年の間にあった様々な動向(エレクトロニカやらダブステップやらウォンキーやら)は見事に忘却の彼方に追い遣られる。

そのある種の懐かしさはシンプルなブレイクビーツや器楽音のサンプリングなどの要素が複合的に齎す結果であるが、意外にも声のサンプルという要素が誘発する部分が少なくないように感じる。
少し前まで確かにそれはインスト・ヒップホップにおいてもテクノにおいてもリズム上のフックとして重要なオプションであったはずだが、今思えばPrefuse 73のヴォーカル・チョップを一つの到達点として減少の一途を辿っているような気がする。

考えれば声ほど残響の無い音というのも他に無い訳で、輪郭を暈したサイケデリックな音像が幅を利かす現在においてはそれも自然な成り行きなのかも知れない。