Ariel Pink's Haunted Graffiti / Before Today

久々に実にアメリカらしい音楽を聴いた感じがする。
こういった悪ふざけ染みたポップ・ミュージックは、何故かイギリスからはなかなか出て来ない。
音楽性は全く別々だが、Butthole SurfersやPixiesPavementサウンドや、Harmony Korineの映画、そして本作には、アメリカという「世界の中心」にマジョリティとして生まれたにも関らず、良心的な一市民である事を拒否した者のみが醸し出す事の出来る圧倒的なフリークネスがある。

パンク、ニューウェイヴからAORまでを十把一絡にして小馬鹿にするようなスキゾフレニックな曲展開は、充分過ぎる程にレトロではあるが、過去への憧憬が感じられない分、不思議とノスタルジックさは無い。
要するに単にふざけているとしか思えないが、そのふざけっ振りは覚悟にも似た性根とシニシズムを伴っている。

8トラックで録音された音像は紛れも無くローファイだし、チープなシンセは確かにニューウェイヴィで、つまり本作は昨今のアメリカン・インディ・ロックのトレンドであるグローファイやチルウェイヴを象徴する一枚だろうと思う。
もう一枚の今年を代表する作品であろうDeerhunterの「Halcyon Digest」の、シーンとの距離を置こうとする意志すら感じる作りと較べて非常に対照的であるのは、オリジネイター故の余裕からかそれとも純粋に壊れているだけか。

未来の音楽に影響を及ぼすようなサウンドでない事は間違い無いが、まだまだレトロな空気から抜け出す気配の無いこのディケイドの最初の年を数年後に振り返る時、思い出すのはDeerhunterよりも本作の方かも知れない。

それにしても本作と言い、Squarepusherの新作と言い、一昔前には嫌悪の対象でしかなかったAORを参照するサウンドが目立つのは、ジョークに出来るくらいに相対化された結果なのだろうか。
何にしても存分に笑える作品である事だけは確かである。