Ford & Lopatin / Channel Pressure

Oneohtrix Point Neverによるチルウェイヴと聞いて想像する音楽からの乖離は意外に少なく、「Returnal」の「Nil Admirari」に対応するようなタイトル通りのスカムなコラージュから始まるアルバムには何処か諧謔性や冗談臭さが漂っている。
ただ同じように80年代をネタにしたAriel Pinkに較べると然程悪ふざけに勤しむ感じは無く寧ろ洗練されていると言っても良い。

Ariel Pinkの場合8トラックで録音された過剰にローファイな音像がその音楽がジョークである事を強調する為に不可欠な要素となっていた一方で、本作ではビートや主旋律を奏でるシンセ音こそ充分レトロな響きを有してはいるものの、表面的なシンセポップと不可分にレイヤーされた目まぐるしく多彩で豊潤な電子音響やノイズの存在が、技術的な意味でも80年代には有り得なかった音響を作り上げている。

奥へ奥へと音を掻き分けて進んでみても、あらゆるスペースで何かしらの音が鳴っているような感覚にも関らず
決してカオティックにはならず整頓された印象があるのは、ミックスを担当したGuillermo Scott Herrenの力量に因るものか。

チルウェイヴに付き纏いがちな「退行的」といった評価は少なくとも本作には些かも当て嵌まらない、とは言えToro Y MoiやWashed Outもまともに聴いていない自分にはこの音楽をチルウェイヴに括る事の妥当性は判断出来ないのだが。