Rovo / Ravo

移り気に見える山本精一のバンド活動としては、Rovoがこれ程長くコンスタントに作品をリリースし続けているのは、他メンバーの多忙さを鑑みても驚きである。
98年のRovoの登場は、Boredomesの劇的な変貌と共に大きな衝撃で、両者はテクノと言えばコーンウォール一派しか解せなかった自分をダンス・カルチャーに開眼させる契機になった。

大きかったのは、山本精一が「グラデーションのような変化」と語った(と思う)、全体が一律に変化していくのではなく、各楽器が異なるタイミングでフレーズを変えていく事で全体が一定の時間を掛けて徐々に遷移する展開で、それは結果的に反復の中の差異に焦点を置いて全体の遷移を聴取する事の快楽を自分の中に芽生えさせた。
それはある意味でミニマリズムの楽しみ方を会得するような体験で、紛れも無く個人的な音楽の拡張に違い無かった。

但しその後10余年の間、Rovoの作品によって更なる拡張が齎された感覚は薄い。
Rovoサウンドは最初から完成された発明であり、そこにイノベーションの余地は残されていなかったのかも知れない。
この新作を聴いてもその印象が揺らぐ事は無く、M1のゆったりと移り変わってゆく展開からブレイクを挟み、一気にクライマックスに加速していく展開には安心感こそあれ、ある種の名人芸の如く驚きには欠ける。

決して変化が無い訳ではなく、M2の循環するメロディからはかつてAslnの活動を通じて循環しないポップスを標榜した益子樹よる次なるステップが感じられるし、続く山本精一よるM3はRovoには珍しく直線的な低音を基調としている。
それでもRovoサウンドに変化に乏しい印象を抱いてしまうのは、主旋律を奏でる電子バイオリンの音がそれらの変化を覆い隠す程強固に響くからで、まぁ何ともつくづく潰しの利かない音があったものだと感じ入る。