Radiohead / The King Of Limbs

前作「In Rainbows」が、Radioheadにしては幅広い曲調を持った、ある種「OK Computer」以降の集大成的な内容だっただけに、長きに渡る彼等の冒険にも一区切りが付いて、今後は大御所らしく落ち着いてしまうのではという予想もしたものの、どうやら本作で早くも次なる冒険に踏み出したようだ。

「Kid A」や「Amnesiac」におけるIDMエレクトロニカの影響が示すように、Radioheadの「冒険」の本質には盗用があり、本作の主要な参照点はダブステップ以降のUKにおけるベース・ミュージックのビートで、それは随分と前からThom Yorkeが自身のソロ・ワークや、FleaとのAtoms For Peaceで採用していた素材でもあって今更な感も無くはないが、本作のサウンドの基盤を形成しているのはエレクトロニクスではなく、Colin GreenwoodのベースとPhilip Selwayによる生ドラムの断片のループである。

改めて考えると意外な事に、本作に収められた楽曲の展開はこれまでに較べて遥かにミニマルで、実感としては初めてRadioheadにCanからの影響を見出せた。
一定のベースラインが繰り返されるという点において、「Kid A」収録曲中最も本作の楽曲群に似通った構造を持つ「The National Anthem」と較べてみると、本作が如何にアンチ・クライマックスであるかが良く解る。
冒頭から様々なノイズやシーケンスが不穏さを醸し出し、管楽器の発狂によって極点を迎える「The National Anthem」から、「OK Computer」以前からRadioheadの音楽に付き纏う「パラノイア」等といった表現を想起するのは容易い一方で、本作のThom Yorkeの歌唱法は何時になく平淡で、如何なる感情的な表現(「無感情」でさえ)も湧いて来ず、アニミズム云々といった話にも合点は行く(まぁ深追いする気には全くなれないが)。

誠に不本意ながら、正にその点こそが今一つ本作に興奮を覚えない理由であるようにも思え、自分が未だ音楽(特にロック・ミュージック)に纏わる「感情表現」というオブセッションから自由ではない事を思い知らされる。