Bon Iver / 22, A Million

グリッチーなノイズやドローン的な持続音、過剰なエフェクト処理にヴォーカル・チョップ等々、エレクトロニクスの比重が格段に増大している。
特にオートチューンによるヴォーカルの変調は全編を通じて本作を特徴付けており、M3の独唱はあからさまなまでにJames Blakeからの影響を窺わせる。

エレクトロニクスの導入によりインディ・フォークの範疇から大きく飛躍し、その挑戦的なプロダクションから「Kid A」に擬える声もあるようだ。
しかしあくまでもピアノやギター等のアコースティックな楽器音が楽曲の基調にあり、嘗てRadioheadが試行した程のソングライティングやコンポジションに於けるスタイルのドラスティックな変化は無い。

カントリー調のM5や、アルバムを通じて散見されるニューオリンズ・ジャズを思わせる管楽器類やマンドリン等の南部を想起させる音色からは、Beyonce「Remonade」に対するカントリーからの影響の指摘があった事や、同作に付けられた映像に於ける南部の光景がフラッシュバックする。
古き良きアメリカを体現する音楽的遺産の引用は現在に於いてどうしたってポリティカルな色合いを帯びざるを得ないが、それはさておき嘗てWilcoに冠された「オルタナ・カントリー」なるタームが現在最も相応しいアルバムだと言えるだろう。

一方でM2のひしゃげたビートやアルバム中で頻出する過剰に歪んだベース等は最早ノイズと表現する方がしっくり来る程で、アメリカーナにゴスペル、AORといった過激なイメージから最も遠いこれらの音楽が、グリッチやスキップ・ノイズ、コンプレッサー等々を駆使して態々穢される様は、些か露悪的でナルシスティックで何処か「Yeezus」に通じる感覚もあり、時流も相まって「自傷するアメリカ」等というイメージさえ喚起させる。