Thurston Moore / Demolished Thoughts

少なくとも表層的な部分でSonic Youthアヴァンギャルド面を担ってきたのは、Thurston MooreでもLee RanaldoでもなくKim Gordonでなかったかと思う、というのは各々のソロワークや課外活動から抱いた印象であるが、その旺盛な実験精神に拘らず、決してポップ・ミュージックへの信頼を欠かないところに
Thurston Mooreという表現者の興味深さがある。

Thurston Moore版の「Sea Change」という触れ込みに取り立て意外性を覚えなかったのはそのような認識があったからに違い無いが、実際に本作を聴いてみると、「Sea Change」が醸し出していたオーセンティシティや洗練からは結構な落差もあった。

Thurston Mooreのギターに関しては、例えばフィンガー・ピッキングだったり、或いはフリー・インプロヴィゼーション的な奏法だったりというアコースティックを前面に押し出したものを想像したが、直線的なストロークと変則チューニングによる独特のコード感など、気が抜けるくらいにThurston Moore節全開で、プラグを挿せばそのままSonic Youthの楽曲として使えそうなものばかりだ。

考えると近年の「Goo」や「Dirty」を彷彿とさせる割とストレートなSonic Youthサウンドからは、流石のThurston Mooreのアイデアも飽和状態に達したような印象もあった(30年以上に渡り一つの楽器の可能性を突き詰めているのだから無理も無い)。
そのギターによる実験とは、電気的増幅を用いた(不協)和音に関するものだと(大雑把ではあるが)表現出来るだろうが、本作はThurston Mooreが初めてフィードバックを排除するという「マイナス」のアイデアを以て制作した作品だと言えるだろう。

そこで明らかにされているのは長年の活動で培われた尚も頑強なイディオムであり、その意味ではBeckによるストリングスやハープを配したアレンジメントが些か蛇足に感じられなくもない。
と言うよりそれはあからさまに後で付け足した感丸出しで、恐らくThurston MooreBeckの二人は同じ時間や場所を共有していないどころか、Thurston Mooreによるギターの弾き語りを録音した音源をBeckに丸投げしたのではないかといった想像すらさせる。

後半になるに連れてその印象は顕著になり、それは恰もフィードバック・ノイズの抜けた穴を埋めるようでもある。
そのノイズを発するのがJim O'RourkeではなくBeckであり、鳴っているのが電子音ではなくストリングスやハープである、というところに本作の面白味はある。