My Bloody Valentine / MBV

M1の津波の如く押し寄せるディストーションに飲み込まれる瞬間に訪れる猛烈な既視感。
紛れも無くこれは20余年振りのMy Bloody Valentineだ。
続く牧歌的なM2はまるでDeerhunterの青写真を聴いているようで、全く古びないそのイディオムに、現在進行形のポップ・ミュージックが些か懐古趣味的である事を差し引いても、如何にMy Bloody Valentineという「ジャンル」のオリジナリティが強固であるかを再認識させられる。

本作は「Loveless」の後にバンドが残したマテリアルに新たに録音を付け加えたものとの事で、「Soon」の続編のようなM6はさて置いて、全体としては執拗なポスト・プロダクションの影は無く、デモテープを聴いているかのようなラフな音像から「Isn't Anything」を想起する人が少なくないのも理解出来る。

特にアルバム後半の3曲で聴かれる、Kevin Shields自らドラムンベースからの影響と語った(らしい)、不馴れで些かたどたどしいブレイクビーツの模倣(或いは誤用)からは、当時の彼等が見据えていた方向性が明らかになるようで、それは「Loveless」2とは懸け離れたものだった事が聴き取れる。

欧米では大きな称賛と共に迎えられた本作だが、個人的に20余年振りに発掘されたアウトテイク聴いている以上の興奮を覚えないのは、50代になった現在の彼等の嗜好や興味の発露が本作からは全く聴こえてこない事に起因するのかも知れず、「Loveless」に代わる作品が有り得ない事は明白であるとしても、My Bloody Valentineの「発明」がその後のポップ・ミュージックのありとあらゆる場所から聴こえてくる事を考えれば、My Bloody Valentineでなければ鳴らせない音は最早残されていないという事を突き付けられているような気分にもなる。