Joker / The Vision

このブリストルギャングスタが作るトラックを他の凡百の(ポスト・)ダブステップから差別化しているのは、ヒップホップとR&Bからの色濃い影響だろう。
TR-808を思い出させる過剰なキックの音圧やダブステップにしてはダウンビートの強調が少ないリズム等はその証左であるように感じられるし、(本人はPharrell Williamsからの影響を公言していたが)何処となくいなたいメロディからはやはりDr.Dreを思い起こさずに居られない。

その印象は幾分悪ふざけ染みたフュージョン風のインタールードを挟んだ後半に特に顕著で、MGMTのようなチャイルディッシュで珍妙なコーラスが印象的なM8やM10等は停滞するグライムを更新しているような感もあって、改めてJokerの出自を再認識する事が出来る。

ピアノやシロフォンにギターやストリングスといった生楽器の音色を使用したM11やM12は、特にR&Bの要素が目立つトラックだが、それはR&Bを流用したダブステップと言うよりも、ベース・ミュージックを採り入れたR&B(それもJames Blakeとは対照的にヒップホップ以降のモダンなメインストリームのもの)と呼ぶ方が相応しい類のもので、そのオーセンシティも決して悪くはないが、日本盤のボーナス・トラックとして収められたRustieによるリミックスの奔放さの前では、然程年齢は変わらない筈だが、何とも老成した印象を受けたりもする。