Plaid / Scintilli

もしも今のWarpがかつての「Artificial Intelligence」のような戦略的なコンピレーションを編むとしたら、その主役はFlying LotusHudson MohawkeやRustieのようなヒップホップのミュータントか、或いはGrizzly BearやBattlesみたいなバンドになるのかも知れないが、何れにしてもAphex TwinやAutecherやBlack Dog Production〜Plaidといった面々がクローズアップされる事は先ず無いだろう。

IDMエレクトロニカ全盛の当時、自分は決してPlaidの良いリスナーとは言えず、Aphex Twin程の極端さもAutechre程の先進性も無い、程好く実験的で程好くポップなそのサウンドに何処か中庸な印象すら持っていた。
ところが時代は移り変わって、かつてのIDMエレクトロニカのスター達が皆何らかの転換を余儀無くされたように見える―Richard D. Jamesのように只管沈黙する人も居れば、Kid606やMachine Drumのように半ば無節操にベース・ミュージック〜ダブステップに鞍替えする輩も現れ、Autechreでさえある種の原点回帰を経験しなければ、傑作「Oversteps」を産み落とす事は無かっただろう―中にあって例外的にPlaidの二人はマイペースに、けれども頗る直線的にキャリア積み重ねているように思える。

サントラを挟んだ事もあってそれ程久々な印象は無かったが、実は8年振りとなる新作でもPlaidサウンドにはまるでエレクトロニカの「敗北」など無かったかのように、エレクトロニック・ミュージックの未来が無尽蔵に感じられた時代の空気がパッケージングされている。

ピアノや鍵盤打楽器類にエレキ・ギターまでもを含む弦楽器等の器楽音が多用されている点は特徴的だが、最近のSquarepusherのロック志向などとは全く違って根本的な変化を感じさせるものではまるでない。
変にオーガニックにならずあくまでエレクトロニックな質感の中にそれらの要素を溶かし込む手腕はベテランならではと言えるだろう。
また幾つかのトラックでは現代的なウォブリーなベースが基調を成しているが、ミニマルでクラウト・ロックみたいなM2等はダブステップよりもSeefeelの近作なんかに近い感触で、トレンドに目配せするような感じは皆無である。

新鮮さがあると言えば嘘になるが、決して停滞感は無く、突拍子もないアイデアの代わりに丁寧なプロダクションと心躍るメロディがあり、回を重ねる毎に愛着が増していくような感がある。
現在尚このようなエレクトロニック・ミュージックに対する屈託のない愛情とオプティミスティックなヴィジョンを提示出来るのは、Plaidを置いて他にLuke Vibertくらいしか思い当たらない
とは言え素直に心からシンパシーを感じるかと言うと難しいところもあるのだが。