Tectonic / Tectonic Plates Volume 3

前作がリリースされた2009年、Tectonicは確かにダブステップの中心に居た。
Pinchは勿論、SkreamやBenga、Peverelist等のオリジネイター陣に、2562やMartynにJokerといった新興の勢力が顔を揃えたそのコンピレーションは、ダブステップとは何かという問いに答えると同時に最新の展開を紹介していたという意味で、同年の「5 Years Of Hyperdub」と共振していたと言って良い。
しかしその後DarkstarのヒットやHype Williamsのフックアップで存在感を放ち続けるHyperdubと較べると、2562の「Aerial」「Unbalance」をピークにTectonicの動きには鈍化しているような印象があり、本作を聴いてもそれが覆る事は無かった。

豪華絢爛だった前作の面子と較べると名前負けの感は否めないが、それでも個々のトラックにはそれなりに聴き応えもある。
Pinchの嗜好に合わせるように、何時にも増して芝居掛った仰々しいループが特徴的なAddison Grooveや、UKファンキーを更新するようなRoskaの土着的なビートはそれなりにユニークだし、やや捻りが無さ過ぎる気もするもののGoth-Tradの硬質のハードコアには完成度の高い機能性がある。
Pinchの相変わらず息の詰まるようなメランコリーには流石と思わせるものがあるし、多面的なリズム・プロダクションが形成するバウンシーなビートにシンセが波のように押し寄せる2562のトラックはやはり圧巻だ。

ここ数年顕著なジュークやテクノ・リヴァイヴァル等の影響は散見されるものの、低音域や3拍目を強調するビート等のダブステップのフォーマットを逸脱するトラックは少なく、そこからは「Pinch & Shackleton」でShackletonのプログレッシヴさに隠れて見え辛かったPinchのダブステップへの拘泥が浮き彫りになるようで、その印象は最早「ダブステップを期待するな」と言い放つKode9とは実に対照的である。

特段テーマを設けないレーベル・コンピを聴く愉しみの一つには、他人のレコード・ラックを覗き見するような感覚があると思っているが、例えるなら本作は「最近新しい音楽を聴いていない」のだと嘯く友人宅の棚を見ているようだ。
「あぁ相変わらず好きなんだね、ダブステップ」というような…。
まぁ全く人の事は言えないが。