The Flaming Lips / The Terror

2000年代のアメリカン・インディに於けるサイケデリアの繚乱の始まりを告げたのが「Race For The Prize」の銅鑼の音で、その終止符が前作「Embryonic」だったとするならば、宛ら本作は在りし日のユーフォリアに対するレクイエムのようだ。

前作と同様に耳を劈く鋭利で即物的なノイズが横溢していて、またしてもインダストリアルなんていう単語が頭を過るもするが、一方で殆どの楽曲でキックが淡々とリズムを刻み、スネアやベースの存在感も希薄で、その語から連想するような重量感や攻撃性は一切無い。

確かにノイジーで金属的なファズ・ギターについつい思考を90'sに誘われもするが、当時の彼等のサウンドとは似ても似つかないという意味で如何なるリヴァイヴァルとも様子が異なっている。
ある種のファッションのようにネガティヴィティが蔓延していたその時代にThe Flaming Lipsの音楽が発するオプティミズムは異彩を放っていた。
2000年直前に祝祭にまで発展していったその楽観だが、本作はその陽性のキャリアを真っ向から否定するかの如く終始メランコリックなメロディに支配されている。

思えば20年を超えるキャリアでありながら彼等には1つ足りとて(Sonic YouthR.E.M.にさえあった)原点回帰の類の作品は無く、旺盛なコラボレーションを鑑みてもその軽やかなフットワークや音楽的な探究心の衰えの無さには驚かされる。