Julia Holter / Loud City Song

迸る楽理的なインテリジェンスと相反する宅録特有のシンセやドラムマシンのビートが有するチープネスは限りなく希薄になり、より重厚さを増した管弦楽器や生ドラムの音色によって最早チェンバーと言うより豪奢なオーケストラル・ポップと呼ぶに相応しい楽曲が並んでいる。

とは言え聴く者を選ぶようなスノビズムは皆無で、宛らオペラのように1曲の中で目まぐるしく曲調が変わる展開はそのままに、前作に顕著だった無国籍なメロディのエキゾティシズムは薄れ、よりフレンドリーな(敢えて言うなら普通の)ポップスに接近しているが、セルアウト感はまるで無く、ある種の複雑性や難解さと解り易さや世俗性を共存させているという点で稀有な作品だと言える。

8ビートが予想外なM3や、スキャットともラップとも言えそうなヴォーカルがミュージカルのようなファニーさを醸し出すM4、何処かAriel Pinkのような諧謔性を垣間見せる(尤も毒は皆無だが)フレンチ・ポップ風のM8等、本作が喚起するイメージの幅は前作よりも余程広範で、その多様性はどうも本作に設定されたコンセプトに由来するようだ。

実験性が薄れた感も無くはないし、個人的に期待したアヴァンギャルド指向とは真逆とも言えるアプローチが採用されているが、本作にはそれを補って余るだけの完成度とポップネスがあり、Julia Holterの才能がアンダーグラウンドに留まり切れるレベルのものではない事を証明した記念碑的な1枚として記憶される事だろう。