Swindle / Long Live The Jazz

ジャズとダブステップのクロスオーバーというアイデア自体は気恥ずかしいほど単純極まりないが、M1のウッドベースが聴こえた瞬間に身体中の血が沸騰するような感覚を覚え、これはダブステップ版の「The Low End Theory」かも知れないという期待感が充満する。

とは言えジャズ一辺倒な訳ではなく、ソウルフルな女声ヴォーカルにオルガンをフィーチャーしたM4ではゴスペルとの邂逅が聴けるし、中盤に色濃いR&B調のトラックにはJokerに通じるメロウネスや黒光りしたねちっこいファンクネスがあり、色彩豊かなシンセの音色や派手派手しく躁的な展開はRustieを思わせるところもある。
終盤にはDeep Midiのイメージを覆すようなビッグバンド風の生音を基調とした非フロアライクなリスニング対応のトラックが続き、しばしの無音を挟んで満を持しての「Do The Jazz」でアルバムが終わる事によって、また冒頭の熱狂への欲求を促す循環構造を取っている。

ダブステップというシーンやムーヴメントが終わった事は否定し難いが、「Do The Jazz」のようなトラックを聴いていると、「Mala In Cuba」同様にそのスタイルが依然として充分な強度を持っているものと思わされる。
そもそも技術的な革新とは異なりポップ・ミュージックに於ける発明は、ダブやダンスホールが現れてもルーツ・レゲエが無くなりはしないように、発展はあっても代替が効かないものだ。
勿論聴き続ければ飽きは来るが、正に現在のジャングルがそうであるように、時間が経てばまたダブステップが再燃する事も充分にあり得るだろう。

Britney SpearsSkrillexのせいでダブステップというタームは今ではすっかり卑下されている感があるが、なかなかシーンやムーヴメントが発展・定着しない現代に於いて、その影響力の大きさはジャングル以降最大と言って差し支えないレベルだったし、ダブステップが無ければ現在鳴っている音楽の様相はまた大きく異なっていただろう。
インターネット社会に於いて、極々小さいローカル・コミュニティから始まった音楽が世界中を席巻してゆく様はロマンティックでエキサイティングだった。
ジャングル/ドラムンベースがそうだったように、ダブステップもまた徐々に地下へと潜っていくだろうが、その潜伏期間に本作のような良作が埋もれない事を強く願う。