Vampire Weekend / Modern Vampires Of The City

ブレイクビーツ風のマシニックなビートや声の変調、フィールド・レコーディングによるマテリアルやサンプリングの挿入などからはバンドが持つ引き出しの多さを感じさせるが、敢えてギミックは最小限に排され、オーセンティックなソングライティングとシンプルなアレンジメントが徹底されている。

オーセンシティ、成熟、禁欲。
本作から連想されるイメージの多くはDirty Projectors「Swing Lo Magellan」と共通する。
同作を聴いて抱いたのは、成熟を評価出来るという事にはアーティストの歩んできた歴史・物語としての音楽的変遷が前提として必要なのだという事で、初めてきちんと対峙する作品が成熟を標榜したものであるというのは、物語の経緯も知らされずにいきなりハッピーエンドを見せられているような感覚に近いという意味で、自分とVampire Weekendの出会いは酷く不幸なものだと言えるかも知れない。

聖歌隊を思わせるポリフォニーやオルガンにチェンバロ、清廉なピアノに更にマリンバやストリングス等を加えた多彩で豊潤な器楽の音色やそのアレンジメント、シンプルだが丁寧なプロダクションなどは確かに特筆に値する完成度だし、ルーツ・ミュージックへの造詣の深さも端々に横溢している。

けれども闇雲にトレンドに寄り添う態度が良いとは決して思わないが、それでもインダストリアルがモードの1つであったはずの2013年に、それとは対極にあるようなこの耳当たりが良く行儀の良い、良くも悪くも人畜無害で何らの時代性も反映していないように思える作品がその年を象徴する1枚として喧伝された事にはどうしても違和感を拭えない。