DJ Rashad / Double Cup

音楽未満のプリミティヴィティこそがジュークの魅力なのだとしても、このアルバムの完成度や洗練には否定し難い訴求力がある。
ジャジーでソウルフルなサンプルが齎すメロウネスにはより広範なポピュラリティに対する野心が漲っていて、最早部分的にはジュークの公式に拘ってさえいない。
ヒップホップからの影響が色濃いビートは本作の特徴であるが、M9やM14ではジャングルの導入が聴けるし、M11などは変わり種のアシッド・ハウスのようにも聴こえなくもない
更にM12からM13へと続くハウシーなフィーリングは本作のハイライトの一つと言って良いだろう。

断片的なループが複数の異なるピッチで重ねられる事で、従来のジュークにあった冗長さや単調さ(尤もそれはこのスタイルの持つフリークネスの源泉でもあったが)は周到に回避され、多面的なリズムを生み出している。

本作の音楽的な洗練はしかしジュークのユニークさを何ら陥れるものではなく、寧ろその応用度の高さを見事に証明していて、更にM7からM8への流れのフリーキーさは本作に於いてのみならずジュークのトラックの中でも突出したレベルのものだ。

但しPlanet Muのコンピレーションを聴いた際に感じたフリークネスとは明らかに異質で、それがシーンの無意識の総体として立ち上がってくるようなある意味で天然の異常さであったのに対して、本作のそれは明確な意思を以て既定のフォーミュラを外れようとするもので、「Bangs & Works Vol.2」で聴こえたジュークに於ける作家性(自我と言い換えていいかも知れない)はDJ Rashadによって完成された、と言っても決して過言ではないだろう。