Anderson .Paak / Malibu

Dr. Dre「Compton」で見せた、荒々しく扇情的なラップとは実に対照的なメロウでソフトな歌声に、些か積もりに積もった期待感が肩透かしを喰らう。
時折挟むMichael Jacksonばりのアッとかフッとかいう掛け声に掛けられた不自然なエコー処理がフリーキーではあるが、その後も熱量が振り切れる瞬間は訪れず、タッチはあくまでもソフィスティケートされていて、少し掠れた声質がStevie Wonderを思わせたりもする。

ラップと歌の往来は滑らか且つ自由自在で、その境界線は限り無くシームレス。
まるで歌うようと評されるラッパーは星の数ほど存在すれど、本当にここまで歌えるラッパーは稀で、寧ろラップも出来るソウル/R&Bシンガーと表現する方がしっくり来る。
とは言えそのラップの技巧も驚くべき水準だと言うのだからCeeLo Greenも霞んで見える。
その特異なヴォーカリゼーションは、Schoolboy QやThe Game等、名だたるゲストのラップをノーマルに聴こえさせるが故に逆に異化効果によって有効なフックたらしめているという倒錯さえ齎している。

サウンド面では「Compton」を特徴付けていたトラップの導入とは対照的に、グルーヴィでスムースだが抑制されたベースラインや、自身が叩くタイトでマシニックなハット捌きが特徴的なドラムスを始めとするアナログ楽器の音色が基調となっており、楽しみにしていたMadlib9th Wonderによるトラックよりも寧ろ
オーセンティックな志向を感じさせるセルフ・プロデュースのトラックの存在感が勝っている。

D'Angelo「Black Messiah」を思わせるM5のファンクと、ブギーファンク調にブラスが加わりドライヴするM6で最初のハイライトを迎え、終盤4曲 - アルバム中最も声を涸らしてエキサイトするエスニック調のファンクM13に始まり、エレクトロニクスでコーティングされたR&BバラードのM14、60's風のオールド・スクールで多幸感溢れるソウル・チューンのM15を挟み、アンセミックなM16で大団円を迎えるまでの流れ - はクラシックの風格さえ感じられる。
が故に新奇さにはやや乏しいし、声質もシンガーとして聴くよりもラッパーとしての方が好みなので、もう少しヒップホップで勝負して欲しかったという思いも無くはないが、本作のリリース後にはAftermathと契約したという話もあるのでその辺りを楽しみにして次作を待ちたいと思う。