Thundercat / The Beyond / Where The Giants Roam

所々でFlying Lotus「You're Dead」に類似したベースやヴォーカルのフレーズが散見され、メロディ上でも深遠なムードの面でも同作に於けるThundercatの役割の大きさが伺える。
とは言えパンキッシュな高速スラップベースは皆無で、サーフェスノイズやヒスノイズ、シンバルのクラッシュ音等で埋め尽くされていた同作とは対照的に、音数は少なく余白の多さが印象に残る。

ピアノ、サックス等のスピリチュアル・ジャズの音色やイディオムは特徴的ではあるが、Flying Lotusによるアヴァン・ジャズとの共振は然程感じられず、近年勢いを増すL.A.のコンテンポラリーなジャズとも違えば、かと言ってオルタナR&Bと呼ばれる音楽とも関係無く、要するにカテゴライズ不能なオリジナリティの塊のような音楽が全編に渡り展開されている。

ヴォーカルに対するエコー&リヴァーブ処理が生むアトモスフェリックな音響を背景に、アルペジオ主体のベースと極めてシンプルな生ドラムが刻む明瞭なビートが屹立し、そこにスペーシーで浮遊感のある種々のSEが加わる事で、ありがちな混沌による表現とは異なる奇妙なサイケデリアが醸出されていて、敢えて名付けるとするならばベースによるサイケ/アシッド・フォークといった趣き。

ジャズの要素と(生音主体ではあるが)ヒップホップ由来の8ビートの混交自体は在り来たりだが、そこにサイケデリックの要素と、ルックスからは想像出来ないほどプレーンな歌声が加わる事で、ステレオタイプなファンクネスやブラックネスは消失し、その黒くも白くもない独特の世界観が、R&Bという便利で都合の良いジャンルにこの音楽をカテゴライズする事への抵抗感の源泉になっているように思える。