Mala / Mirrors

先ず前作をも凌駕するリズムの多様性に唸らされる。
M1やM3こそオリジナル・ダブステップ・マナーの1/4のビートだが、M2のシンコペートするパーカッションとサブベースが織り成すポリリズムや、M4の旧来のエレクトロニック・ミュージックにはなかなか無い変拍子等、リズムの巡礼者の面目躍如たるビートが矢継ぎ早に披露されている。

前半こそリズム・オリエンテッドで、冒頭のケーナの音色を除けば如何にもペルーといった要素は希薄だが、然したるエディットも施さずに現地の女性シンガーの歌がインタールード的に挿入されるM6を境に、M7、M8のスパニッシュ・ギターの音色等のフォルクローレ的な要素が増えていく。
そのマイナーコード主体のメロディはキューバ楽天的なそれとは明らか違う哀愁を帯びていて、ペルーの観光地の光景が一瞬フラッシュバックする。

ワールド・ミュージックを素材として扱いながらも、マテリアルを極めてドライで即物的に選別し、エディットしているが故に、有りがちなトライバリズムやエキゾティシズムに依拠していない点は前作と同様だが、ダークなメロディやポリリズミックなパーカッション、最早DJユースを放棄したようなトラックに於ける面妖で呪術的なSEの導入等、Shackletonに接近するような瞬間もあり、そう言えばアステカが人身御供のメッカであった事を思い出したりもする。

珍しく浮遊感のあるシーケンスが印象的なノンビートのM11は、シンプルなヴォーカルを生かそうとした結果のようにも思われ、単なるリズム至上主義者ではないMalaの感性の隠れた一面が透けて見える。
そもそもキューバ音楽にもペルー音楽にも造詣を持たないMalaが彼の地を旅する目的が、未知の音色、メロディ、リズムの発見であると考えるならば、音楽至上主義者こそが、彼を評するに相応しい表現なのかも知れない。