Anohni / Hopelessness

本作はAntony Hegartyのバロック・ポップとエレクトロニック・ミュージックの遭遇であると同時に、Daniel LopatinとHudson Mohawkeの出会いとしても興味深い。
クレジット上2人の連名は2曲しかないが、実際にはプロデューサーがLopatin名義のトラックでもHudson Mohawkeのビートが使用されているのではないか推測とされる。
前後関係は良く分からないが「Garden Of Delete」のビート・プロダクションにこのコラボレーションが影響を与えた可能性は少なからずあるのではないか。

大仰でシンフォニックなシンセ主体のHudson Mohawkeの手によるトラックは、ビート・プロダクションに於ける彼本来のフリーキーさや破天荒さが抑制されているが故に大味でチージーなものになってしまっている。
その自身のサウンドアイデンティティを他人のレコードに持ち込まない態度は職業トラックメイカーとしての彼の成熟を物語ってもいるのだろう。

M5のゴシックな教会音楽風のパイプオルガンを始めとして、OPNの存在感が強まるに従ってアルバムは上モノの雄弁さを格段に増してゆく。
M7の「Selected Ambient Works Volume II」をフラッシュバックさせる変調されたヴォーカル・ループや貫禄のストリングス等の器楽音のアレンジに、シンセの音色・音響・ノイズの多様性、どれを取ってもOPNの方が一枚も二枚も上手で、その後に聴くHudson Mohawkeのトラックは圧倒的に凡庸で退屈に感じられる。

ともあれOPNにしてもHudson Mohawkeにしても自作ほどその個性が遺憾なく発揮されているとは言い難く、制作プロセスは知る由もなく想像するしかないが、恐らくはトラック主導ではなく初めに仮歌ありきのトラック・メイキングによって、展開の自由度が制限されたというファクターはあるような気はする。
本作の主題が先ずそのリリックとメッセージにある事を念頭に置けばトラックが歌に従属するのはある意味で必然であるが、Antony Hegartyの暑苦しいヴィブラートが苦手な人間には少し辛い。