Beyoncé / Lemonade

シンセベースとユニゾンのエキセントリックなイントロから特有の倍音を含み揺らぐオルガンによるM1のゴスペルは確かに「The Colour In Anything」と同質のオープニングで、James Blakeの存在感を強く感じると同時に、これから始まる稀代のポップ・スターの冒険の幕開けに相応しい。
内省的な内容に終始するかと思いきや、続くDiplo作のM2は一転レイドバックしたムードのラヴァーズ・ロックで、Jack WhiteをフィーチャーしたロッキンなM3や、今一番「Freedom」という言葉が似合う男 = Kendrick Lamarが援護射撃する新しいソウルの時代のアンセムとでも呼べそうなM10の歌唱は、Diana RossというよりもJanis Joplinと比較したくなる。

更にはニューオリンズ・ジャズ風のイントロで始まり、ブルーグラスっぽさも感じさせるブルージーなM6等のトラッドなスタイルから引用の一方で、The Weekndが手掛けたオーケストラルでウォブリーなM5の大仰さは何処か「Yeezus」を彷彿とさせるし、持続性のある強烈なサブベース、細かいハイハット等のトラップ的な意匠の導入や、アンビエント調のシンセ・シーケンス等の所謂オルタナR&Bへの同調といったトレンドへの目配せも抜かりない。

本作に纏わるゴシップには全く興味が無いが、シンプルなピアノに乗せて吐露されるM8の力強くエモーショナルな歌声には、思わずリリックの意味を知りたくなるような説得力ある。
James Blakeのゴーストリーな歌声をインタールード的に挟み、Kendrick Lamarを迎えたM10からこの物語の主人公の再生を感じさせる勇壮でカタルティックなM11に至る後半の流れは特に圧巻の一言に尽きる。

大団円かと思いきや、アルバム中最もナスティなトラップ風のM12で単純なハッピーエンドでは終わらせず、後日談を予期させるような含みを持たせる構成力は、「Pimp To Butterfly」と同様に音楽に於いてストーリーテリングが持つ力を再認識させると同時に、このストリーミング全盛の時代にアルバム単位で音楽を聴く事の意味を問い直す契機にもなるだろう。