Syd / Fin

シンセ主体の上物や隙間の多いエレクトリックなビートには、Kelela「Take Me Apart」に於けるJam City等の仕事に通じる感覚がある。
M2のヴォーカル・チョップが効果的なビートや浮遊感のあるシンセ等からは、ベースこそ重くはないがJoker辺りのR&B色の濃いベース・ミュージックを思い出したりもする。

M5の不規則に転がるようなハットやM9の畝るサブベースに鮮烈なスネア等、モダンなUSヒップホップのビートの成果(要するにトラップ)の吸収にも余念が無い一方で、スクリュードされた声の反復が異物感を添えるM6や、The Internetの同僚であるSteve LacyによるM10のギター、M12に於けるRobert Glasperが弾くピアノのジャジーな音色にはネオソウル的な質感もあり、宛らKelelaとSolangeの間を行くようでもある。

そう思えば確かにレイジーでいながら官能的な歌声はErykah Baduを彷彿とさせなくもなく、情感を込めて歌い上げられるような瞬間は皆無で、Kelelaのようにややチージーさを感じさせる事も無ければ、SZAのような可憐さを垣間見せる事も無く、その肌理は至って平熱で極めてクールであり、2010年代の「Baduizm」とも表現したくなるような魅力を湛えている。

ほぼ単一の音色による上物にヴォーカル、ベースにビートと僅かなサンプルというシンプルな構成で、ボリュームも最近のR&Bにしては珍しくトータル40分弱というコンパクトさで決して派手さは無いが、例えばMiguelの近作のエコー&リヴァーブ過剰な音像等とは対象的に隙間の多さがちょっとしたビートの遊びを効果的に際立てており、流石は元Odd Futureのトラックメイカーならではの拘りが感じられる。