Sleater-Kinney / The Center Won't Hold

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エレクトリックなプロダクションやニューウェイヴィなアレンジメントからは濃厚なSt. Vincentの存在感が漂っており、お飾りのプロデューサーではなくかなり強力なクリエイティヴ・コントロールが与えられた、しっかりとしたコラボレーションであるのが窺える。
ウォブリーなシンセベース等の従来のSleater-Kinneyでは聴く事が出来なかった類の音色は単純に新鮮だし、元よりCarrie Brownsteinが得意とするニューウェイヴ調のM7はDevo風にまで強化されている。

St. Vincentの前にはJeff Tweedyが候補に挙がっていたというから、バンドの方が主体となって異分子の配合による化学反応を模索していたのは間違いない。
多くの再結成が過去の栄光をなぞろうとするが故に否応無しに老いを極立てるのと違い、老いて尚新しい事をやろうとする意思が明確に伝わってくるようで頼もしい。

自分の愛するSleater-Kinneyの熱量迸るアンサンブルや奔放なダイナミズム、心踊るハーモニーは鳴りを潜めた感もあるが、St. Vincent的な要素とロウなまま残されたSleater-Kinneyが本来持つ要素とが拮抗しており、M1の嘗てなく獰猛なディストーション/フィードバック・ギターや、局部を過剰にデフォルメしたようなノイジーでインダストリアルな音響からは、ソフィスティケートさせ過ぎずストロング・ポイントを残す為に腐心した跡が見受けられる。

St. Vincent自身のサウンドもマシニックな精緻さとダイナミクスを併せ持つという点で、自分のような古くからのリスナーが引かない程度の適度なフレッシュさを齎すには至極適任な人選に思えるし、何よりアンセム調のM10やM11のピアノ・バラード等の、Sleater-Kinneyだけでは生まれなかったであろう曲からは、4人の女性が半分ふざけて笑いながらスタジオで作業する様が思い浮び、勝手に微笑ましくなる。