Róisín Murphy / Hit Parade

ファンキーな前作に大いに魅了されただけに、冒頭のトリップ・ホップ風の慎重な入り方に一瞬不安を覚えたが、すぐにDJ Koze特有の空間が歪曲するようなベース・ラインがインサートされ、途端に安堵感を覚える。
「Róisín Machine」の強烈なファンク臭は薄れた代わりに、DJ Kozeらしい抑制の効いたエレガント且つストレンジなハウスが展開されており、Róisín MurphyとDJ Kozeの対等なコラボレーション作品と考えて差し支え無さそうだ。

その歌声はHerbert作品に於けるDani Sicilianoのそれを思い起こさせる。
因みにDJ KozeにRóisín Murphyを紹介したのはMatthew Herbertその人らしく、捻くれたセンスを持ったハウス・ミュージックの作り手同士のコネクションを感じさせる実に微笑ましいエピソードである。

前作の特に「Jealousy」といった楽曲に顕著だったファイティング・ポーズは一転、M2の牧歌的でピースフルで少しアンニュイなディスコ、M3のスウィートなソウル調に始まって、アルバム全体をレイドバックしたムードが覆っている。
M8等のハウス・チューンにしてもテンポは抑え目で、Beyoncé「Renaissance」以降のボール・カルチャーの熱狂を称揚するような潮流からは一歩引いたようなクールなムードが横溢している。

かと言って勿論単なるチルアウトからは程遠く、随所で存在感を放つサンプリング・ワーク等、元ヒップホップDJにしてDMCドイツ・チャンピオンでもあるDJ Kozeの卓越したエディット・センスが注入されていて、耳への愉楽には事欠かない。
更にM9ではミニマル・テクノ、M11はトラップとジャンル横断的なヴァリエーションにも富んでおり全く聴き飽きない。