Squarepusher / Ufabulum

Tom Jenkinson曰く「またエレクトロニック・ミュージックの事を考えて」制作されたという本作は、確かに自らSquarepusherをなぞるようなスラップ・ベースと高速ブレイクビーツで幕を開けるが、かと言って前作までのロック/ポップ路線を単純に捨て去ったものとも思わない。

特にアルバム前半には明瞭な曲展開やメロディの循環構造があり、80年代シンセ・ポップかフュージョンみたいなレトロなシンセサイザーが存在感を放っている。
エレクトリック・ギター(風)の音色が特徴的なM3等は前作に収められていたとしても決して不自然ではない。

ロールプレイングゲームのBGMのようなノンビートのM5がインタールードの役割を担い、明けた後半は一変してメロディの要素が希薄で、インダストリアルな電子音響とスラップスティックなノイズ等の要素や、まるで高速でザッピングされる映像を観ているかのような目まぐるしく複雑なビート・プロダクションは、制作基盤をラップトップに移行してエレクトロニカと同調した(要はベースを弾かなかった)時期の作風を思い起こさせる。

唯一「Music Is Rotted One Note」を除けば、ほぼSquarepusherのキャリアのあらゆるフェーズに於けるスタイルをカバーしているという意味では、David Lynchの「Mulholland Dr.」に擬えて集大成的作品を妄想したのも強ち的外れではなかったように思えるが、惜しむらくは引き出しと言うか、インプット自体は何ら増えてはいないように感じられる事で、ファン待望だった筈のエレクトロニック回帰が逆に行き詰まりを露呈してしまっているように思えるのは何とも皮肉な事だ。