Bill Callahan / Gold Record

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ボリューム・レベルが大き目だというのは勿論あるだろうけれども、それにしても耳元で囁かれているかのようなバリトン・ヴォイスの低音の響きが改めて凄い。
微かに身体の芯を震わすようでいながら、あくまでジェントルで魅惑的な心地良さがある。
この声で揚々と歌い上げられたりしたらそれこそScott Walkerみたいに大仰になってしまいそうだが、あくまで朴訥とした歌唱が好ましい。

歌のみでなくミキシング全体にも耳のすぐ傍で鳴っているような臨場感と立体感があり、変に音響的に凝っているという訳ではないが、とても前作のツアーの準備の合間に突貫で録られたとは思えないクオリティ。
例えばJim O’RourkeやJohn McEntireの名前がクレジットに無いのが不思議な程だ。

スペシャルな声を持っているのだからシンプルに弾き語るだけでも充分に成立するところだが、曲の本質的な部分とは全く関係の無い、唐突で珍妙な装飾音にこそBill Callahanの矜持を強く感じる。
例えばM2の後半で差し込まれるシンセの持続音に、M3のSunn O)))を思わせるようなギター・フィードバックによるドローン、M5の銅鑼の音やM8のエフェクターで遊んでいるかのようなSEと、挙げ出せばキリの無いその一つ一つに一々ほくそ笑まされる。
曲のトータリティという意味ではそれらの音は完全なる蛇足だが、非常に魅力的な蛇足であるのは間違いない。

取り分け難解な作品という訳ではないけれども前作に輪を掛けてシングル向きな曲が無いにも拘わらず、実際には現在までに全10曲中9曲がシングル・カットされているというのだから訳が解らない。
不自然なまでに長い曲間も確かにコンピレーションに近い感覚を齎しており、散発的な日記のような作品で、アルバムとしての凝集性は希薄で、大作然としたコンセプト・アルバムの対極にあり、それは何処か現在のBill Callahanというアーティストを体現するようでもある。