El-P / Cancer 4 Cure

仰々しさはCompany Flow時代から通じるEl-Pのトラックの特徴であるが、本作でのそれはこれまでのものとは些か様子が違っている。
特にM1のアッパーでロッキンなブレイクビーツなんかははどちらかと言えば鈍重な印象のあった以前のEl-Pのビートには無かったロック的なダイナミズムを感じさせるもので、妙にドラマティックな展開と併せてやや暑苦しくもある。

歪んだノイジーな音像は相変わらずだが、サウンドを覆い尽くす倍音のベールが剥がれ、よりクリアになった気がするのは、アトモスフィアよりも細部を聴かせる事を重視した結果だろうか。
そう言えばヒップホップにおけるパンクをWu-Tang Clanだと考えた事があったが、だとすればCompany Flowは差し詰めグランジで、本作の質感は94年以降のグランジ(の残滓)に顕著だったクリアなディストーションサウンドを彷彿とさせなくもない。
珍しく直接的なエレクトリック・ギターの音色を使用した音色もあるくらいだし。

コーラスのメロウネスも特徴的で、El-Pが殆ど歌うようにラップするM6なんかからは数年前のThemselvesのアルバムを思い出し、何処となくいなたい感じはDJ Shadowの近作に通じなくもなく、El-PにしてもDose OneやJelやJosh Davisにしても白人B-Boyが経年と共にロックに回帰する傾向が顕になるよう、と言うのは流石に妄想が過ぎるかも知れないが。

細部に渡る執拗なエディットには流石と思わせるものもあるが、どうしてもEl-PにCompany Flowのドープネスを期待してしまう人間にはこの垢抜けた方は些か居心地が悪いのも確かではある。